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TOP &GROWアカデミー コラム ジョブホッパーを戦力に変える!中小企業のエンゲージメント活用術

ジョブホッパーを戦力に変える!中小企業のエンゲージメント活用術

2026.01.07

「やっとの思いで採用した優秀な中途社員が、また1年で辞めてしまった……」

人手不足が深刻化する昨今、このような嘆きを多くの中小企業経営者や管理職の方から耳にします。採用コストをかけ、教育を始めた矢先の離職は、現場の士気を下げ、経営にも大きなダメージを与えます。

彼らが辞める理由は、単に「こらえ性がない」からでしょうか?

それとも、会社の魅力が足りないからでしょうか?

この問題を解き明かす鍵となるのが、「エンゲージメントサーベイ(組織診断)」と「ジョブホッパー(転職を繰り返す人)」という2つのキーワードです。一見、相性が悪そうに見えるこの両者を正しく理解し、掛け合わせることで、これからの時代の人材マネジメントのあり方が見えてきます。

本記事では、言葉の意味から両者の相関関係、そして中小企業がとるべき具体的なアクションプランまでを徹底解説します。

誤解だらけの「エンゲージメント」と「ジョブホッパー」

まずは、よく使われるものの、定義が曖昧になりがちな2つの言葉について、その本質を整理しましょう。

エンゲージメントサーベイとは何か?

よく混同されるのが「従業員満足度調査(ES調査)」です。しかし、両者は似て非なるものです。

  • 従業員満足度(ES): 報酬、福利厚生、人間関係など、会社が与える環境に対する「満足度」。あくまで「居心地の良さ」を測る指標です。
  • エンゲージメント: 従業員の会社に対する「貢献意欲」や「愛着心」。「会社の目指す方向と、個人の成長がリンクしているか」を測る指標です。

エンゲージメントサーベイは、単なる不満のガス抜きではありません。組織と個人の信頼関係(エンゲージメント)の強さを数値化し、組織の健康状態を可視化する「定期検診」のようなものです。

ジョブホッパーの正体

かつて、短期間で転職を繰り返す「ジョブホッパー」は、日本企業においてネガティブな存在でした。「忍耐力がない」「協調性に欠ける」といったレッテルを貼られがちだったのです。

しかし、雇用の流動化が進んだ現代において、その意味合いは大きく変化しています。

  • 現代のジョブホッパーの特徴
    • 自身のキャリアプランが明確である
    • 新しい環境への適応能力が高い
    • 市場価値を高めるためのスキルアップに貪欲である

彼らは「嫌だから辞める」のではなく、「ここではもう成長できない」「次のステージに行くべきだ」と判断して辞めるケースが増えています。つまり、「優秀であるがゆえに見切りも早い人材」と言い換えることもできるのです。

エンゲージメントスコアとジョブホッパーの相関関係

では、ジョブホッパーはエンゲージメントが低いのでしょうか?

多くの管理職が抱く「すぐ辞める人=会社への愛着がない人」というイメージは、データを見ると必ずしも正しくないことがわかります。

入社直後は「誰よりもスコアが高い」

意外な事実ですが、ジョブホッパー傾向のある人材は、入社直後のエンゲージメントスコアがプロパー社員(生え抜き)よりも高い傾向にあります。

彼らは新しい挑戦に対して意欲的であり、「この会社で成果を出し、自身のキャリアを前に進めたい」という強い動機を持っています。会社への期待値が高い分、初期の熱量は非常に高いのです。

相関関係のポイントは「スコアの急降下」

問題は、その後の推移です。

一般的な社員のスコアが緩やかに推移するのに対し、ジョブホッパーは「期待と現実のギャップ」を感じた瞬間にスコアが急降下(急落)するという強い相関が見られます。

  • 入社前に聞いていた裁量権がない
  • 意思決定のスピードが遅く、提案が通らない
  • 評価制度が曖昧で、成果が正当に反映されない

彼らはこれらの「組織の停滞」に対して非常に敏感です。スコアの急落は、「ここでは自分が期待した成長や貢献ができない」という、彼らなりの冷静な判断の表れなのです。

「良い離職」と「悪い離職」を見極める

サーベイ結果を活用すれば、離職の質を分析できます。

  • 高いエンゲージメントのままの離職
    「この会社でのミッションは完了した」という前向きな卒業。これは防ぐのが難しく、むしろ応援すべき「良い離職」です。
  • スコアが急落しての離職
    組織への失望による離職。これは企業側の課題によって引き起こされた「悪い離職」であり、対策が必要です。

中小企業の現場で起きている「すれ違い」の正体

なぜ、中小企業において「悪い離職」への転落(負のジョブホップ)が起きてしまうのでしょうか。そこには、中小企業特有の構造的な要因があります。

「背中を見て覚えろ」文化 vs 「明確な定義」を求める姿勢

中小企業では、教育体制が整っておらず、「とりあえずやってみて」というOJT(On-the-Job Training)が主流になりがちです。

一方、ジョブホッパーは「自分の役割(Job)と成果定義」を明確にすることを好みます。この「曖昧さ」への耐性の違いが、エンゲージメント低下の引き金になります。

「なんでも屋」志向 vs 「専門性」志向

中小企業では、一人で総務も経理も営業もこなすような「ジェネラリスト」が重宝されます。しかし、キャリアアップ志向の強い人材は、「何でも屋になること」を「市場価値の低下」と捉え、不安を感じます。

「会社にとって都合の良い人材」を求めすぎることが、彼らの心が離れる原因となります。

彼らは「炭鉱のカナリア」である

ここで重要な視点の転換が必要です。

ジョブホッパーが辞めていく組織は、「変化を拒む組織」である可能性があります。

彼らは変化に敏感なため、組織の硬直化や非効率さを誰よりも早く察知します。彼らのエンゲージメントスコア低下は、「このままでは組織全体が危ない」という警報(サイン)かもしれません。

「最近の若手はわがままだ」と切り捨てる前に、彼らが何に失望したのかをサーベイ結果から読み解く必要があります。

管理職がとるべきアクションプラン

では、中小企業の管理職は、エンゲージメントサーベイを活用してどのようにジョブホッパーと向き合うべきでしょうか。具体的な3つのアクションを紹介します。

Action 1. 採用時のスクリーニングとしての活用

採用面接の段階で、自社のエンゲージメントサーベイの結果(強みと弱み)をオープンにするのも一つの手です。

  • 「うちは給与は業界平均だが、若手の裁量権スコアがずば抜けて高い」
  • 「教育制度のスコアは低いが、その分、自分で考えて動ける人が評価される」

このように「自社が提供できる価値(EVP)」と「候補者が求めるもの」が合致しているかを確認します。転職回数だけで判断せず、「なぜ辞めたか」の動機と「自社の環境」のフィット感を見ることで、入社後のギャップ(リアリティ・ショック)を防げます。

Action 2. サーベイ結果を「1on1」の対話ツールにする

サーベイを実施して「やりっぱなし」にするのが一番の悪手です。結果が出たら、必ず1on1ミーティングで対話を行います。

特にジョブホッパー気質の人材に対しては、以下のような問いかけが有効です。

「今回のスコアで『成長実感』が下がっているけれど、具体的にどんな場面で停滞を感じた?」

「今の業務は、君が将来目指しているキャリア(転職も含めて)にどう役立つと思う?」

彼らのキャリアゴールを否定せず、「今の仕事が君の市場価値を高める」という文脈(接続)を作ることが、エンゲージメント維持の特効薬となります。

Action 3. 「リテンション(引き留め)」から「アルムナイ(卒業生)」へ

最後に、マインドセット(意識)の変革です。

優秀なジョブホッパーを定年まで囲い込もうとするのは、現代において現実的ではありません。

「3年でお互いにこれだけの成果を出そう。その代わり、君の市場価値はこれだけ上がる」

このような期間限定の「心理的契約」を結ぶのです。

高いエンゲージメントを保ったまま「卒業」した人材は、将来的に取引先になったり、経験を積んで戻ってきたり(出戻り・ブーメラン採用)する「アルムナイ(同窓生)」として、企業の資産になります。

「定着」の定義をアップデートせよ

終身雇用が当たり前だった時代、「定着」とは「長く会社に居続けること」でした。

しかし、人材流動化が進む令和の時代における「定着」とは、「在籍期間中に最大限のパフォーマンスを発揮し続ける状態」のことです。

ジョブホッパーは、扱いづらい異物ではありません。彼らは組織に新しい風を吹き込み、変革を促す起爆剤になり得ます。

エンゲージメントサーベイを武器に、彼らの心理を読み解き、彼らが輝ける土壌を作ること。それこそが、結果としてプロパー社員も含めた組織全体の力を底上げし、中小企業の生存戦略となるはずです。

まずはサーベイ結果を、これまでとは違う視点――「彼らは組織の未来に何を警告しているのか?」という視点で、じっくり読み解いてみませんか?

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