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決裁に頼らない「ミドルマネジメントの自律駆動モデル」構築 【第3回】 運用・定着編

2025.12.24

【第3回】「ミドルマネジメントの自立駆動モデル」構築

第1回で設計思想を、第2回で実装ツールを解説してきました。これで準備は整いました。 しかし、ここからが本番です。どんなに優れたスプレッドシートやフロー図を作っても、実際に人が動かして結果が出なければ、ただの「画餅」です。

「最初は使われていたけど、だんだん入力されなくなった」 「ルールが形骸化して、結局口頭依頼に戻ってしまった」

こうした失敗を防ぎ、確実に成果を出し続けるためには、正しい「計測(KPI)」と、定着までの「ロードマップ」が必要です。最終回は、この運用の勘所をお伝えします。

測るのは3つだけ。迷走しないためのKPIセット

あれもこれもと指標を追いかけると、現場は疲弊します。ミドル/バックオフィスのパフォーマンスを測る指標は、以下の3つだけで十分です。3つで足りないと感じても、増やす前にどれかを入れ替えるのが原則です。

指標1:価値(Value)

「その仕事は、依頼者の役に立ったか?」を測ります。

  • 一次解決率: 差し戻しや追加確認なく、一発で完了した割合。これが低いと、お互いに無駄な時間を過ごしていることになります。
  • 満足度: 依頼者(内部・外部)からのフィードバック(5段階評価など)。
  • 再依頼率: 同じような件で何度も問い合わせが来ていないか。

指標2:速さ(Speed)

「どれだけ滞留せずに流れたか?」を測ります。

  • 平均完了時間: 受付から完了までのリードタイム。
  • 期限内率: 設定した期限(SLA)を守れた割合。
  • 仕掛かり数: 処理中の案件がどれだけ溜まっているか。これが増えすぎるとパンクの予兆です。

指標3:再現性(Reproducibility)

「特定の個人に依存せず、組織として対応できたか?」を測ります。

  • 標準遵守率: チェックリスト通りに処理されたか。
  • 例外初動の適正: ここが重要です。「赤(緊急)」や「黄(注意)」の案件が発生した際、決められた時間内に正しい初動(一次対応)が取れたかを測ります。
    • 赤なら24時間以内に一次対応をする。
    • 48時間以内に再発防止の「次の一歩」を1行で登録する。

これらの指標を、色分け(緑・黄・赤)で管理します。赤になったらアラートを出し、すぐに対応する。このサイクルを回します。

90日ロードマップ:定着までの具体的ステップ

この仕組みを組織にインストールするための3ヶ月(13週間)の工程表です。

フェーズ1:土台作り(週1〜2)

まずは小さく始めます。

  • カタログ作成: 暫定版でいいので、業務カタログ(10行程度)を公開します。
  • 宣言: 上記の「3指標」を追いかけることをチームに宣言します。
  • 開通: 依頼フォームと、状況が見える化されたボード(スプレッドシート等)をオープンします。

フェーズ2:運用開始(週3〜6)

実際に案件を流し始めます。

  • 交通整理: 期限(緑・黄・赤)と順番のルール運用を開始します。
  • スライダー適用: 権限スライダーの「暫定レンジ(これくらい任せる)」を配布し、微調整しながら運用します。

フェーズ3:資産化と習慣化(週7〜10)

学びを貯めるフェーズです。

  • ナレッジ整備: 「合格の1行定義」と「ナレッジカード」を、主要業務について各3本整備します。
  • 振り返り: 毎日1回、チームで「3分ふりかえり」を行い、運用上の詰まりを解消する習慣を定着させます。この習慣がないと、改善は止まります。

フェーズ4:自動化と代謝(週11〜13)

仕上げのフェーズです。

  • 自動化: 通知や単純チェックの自動処理(第1弾)を実装します。
  • 棚卸し: 四半期レビューを行い、使われなかったルールを「削る」、指標を「入れ替える」代謝を行います。

ケーススタディ:劇的な改善の実例

この手法を適用することで、どのような変化が起きるのか。2つのショートケースを紹介します。

ケースA:契約レビューが詰まる総務部門

【課題】

依頼内容に抜け漏れが多く、どの案件から手を付けるべきか優先順位もカオス状態。結果、完了まで平均72時間を要し、現場から「遅い」というクレームが絶えなかった。

【打ち手】

  1. 入口をフォームに一本化し、必須3点(内容・期限・金額目安)を義務化した。
  2. 案件を緑・黄・赤に色分けし、それぞれの期限を明示した。
  3. 小額かつ定型の契約は「自動成立」とした。

【結果】

平均完了時間が27%短縮。依頼の抜け漏れが減ったことで再依頼率も19%減少し、一次解決率が6ポイント向上した。

ケースB:IT購買の問い合わせが散る本社

【課題】

チャット、メール、口頭でバラバラに依頼が来ており、窓口担当者が個別に返信していたため、進捗が見えず二重対応などが多発していた。

【打ち手】

  1. FAQ→ガイド付きフォーム→自動通知という「セルフサービス」の流れを構築した。
  2. 見える化ボードで「誰が何を持っているか(仕掛かり)」と「滞留」を共有した。

【結果】

仕掛かり数が34%減少。期限内率が12ポイント向上し、無駄な確認作業が減った担当者の残業時間は18%削減された。

よくある失敗とその場で効く対処法

最後に、導入時につまずきがちなポイントと、その「特効薬」をお伝えします。

失敗:入口が増殖してしまう

 「急ぎだから」とチャットで直接依頼が来るのを許してしまうパターンです。

対処: 「申請はフォームだけ」というルールを鉄の掟にします。メールや口頭は一切受け付けない、返信しないことを事前に周知し、徹底します。

失敗:期限だけ速くなって品質が低下する

速さを追うあまり、雑な仕事が増えるパターンです。

対処: 「合格1行(完了条件)」の中に、「これだけは絶対にやってはいけない(ゼロ化したいミス)」を必ず明記します。

失敗:“例外”扱いが広すぎる

面倒な案件をすべて「赤(緊急)」にしてしまうパターンです。

対処: 赤の定義を極端に狭くします。その代わり、黄(注意)については「原則→基準→行動」のガイドラインを整備し、現場が自律的に処理できるようにします。

失敗:当番が固定化して属人化する

特定の詳しい人ばかりに仕事が集まるパターンです。

対処: 四半期ごとに担当をローテーションします。常に「代替要員(バックアップ)」を隣につける体制にします。

失敗:学びが溜まらない

対処: 「3分ふりかえり」の実施率を監査します。振り返る時間を業務プロセスの中に強制的に組み込まないと、改善のサイクルは回りません。

明日からできる小さな開始

本連載でお伝えしたかったのは、壮大なDXプロジェクトではありません。目の前の「詰まり」を解消し、チームを健やかにするための実務的な工夫です。 すべてを一度にやる必要はありません。明日からできる「小さな開始」は以下の通りです。

  1. 3指標(価値・速さ・再現性)を宣言する
  2. 仕事カタログの暫定版を10行だけ作る
  3. 期限と順番の運用を“明日から”始める(完璧は不要)
  4. 「合格1行」を3本書いて壁に貼る

まずはスプレッドシートを1枚作り、そこを起点にチームの景色を変えてみてください。「決裁」というボトルネックから解放されたとき、あなたのチームは驚くほどのパワーを発揮し始めるはずです。

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