&GROW LP

TOP &GROWアカデミー コラム 決裁に頼らない「ミドルマネジメントの自律駆動モデル」構築 【第2回】 実装・ツール編

決裁に頼らない「ミドルマネジメントの自律駆動モデル」構築 【第2回】 実装・ツール編

2025.12.24

【第2回】「ミドルマネジメントの自立駆動モデル」構築

前回は、組織の詰まりを解消するための5つの設計原則について解説しました。「入口をまとめる」「権限をスライダーにする」といった概念は理解できたかと思います。 しかし、どれほど素晴らしい原則も、現場で使える「道具」になっていなければ意味がありません。

「権限スライダーって具体的にどう設定するの?」 「仕事のカタログ化といっても、何から書き出せばいいの?」

今回は、概念を実務に落とし込むための「実装レバー(5つの道具)」について詳しく解説します。特別なシステム導入は不要です。まずはチームで共有されたスプレッドシートを1枚用意してください。それが、あなたの組織のコックピットになります。

実装レバー1:仕事の“カタログ化”——何を、どの品質で、どの窓口で

最初のステップは、チームに舞い込む仕事を「商品」のように定義することです。これを「仕事のカタログ化」と呼びます。

(1) 名前で呼ぶ

業務があやふやなのは、名前がないからです。「あの件」「例の対応」「総務的な仕事」ではなく、代表的な品目に名前をつけます。

  • 契約レビュー
  • 与信チェック
  • 見積チェック
  • 購買手続
  • 人事手続
  • 障害対応

このように名前をつける(ラベリングする)ことで、初めて管理可能な「単位」になります。まずは主要な業務をリストアップしましょう。

(2) 依頼フォームには「必須3点」と「出口」を明記

原則2でお伝えした通り、入口はフォームに一本化します。ここでのポイントは、入力項目を欲張らないことです。必須なのは以下の3点だけです。

  1. 内容: 何をしてほしいのか
  2. 期限: いつまでに必要か
  3. 金額目安: 規模感はどれくらいか

これに加えて、フォームには「出口の姿(合格基準)」を1行で明記します。 例えば、購買業務なら「単独決済可能・48時間以内完了・再交渉ゼロの状態」といった具合です。ゴールが示されていることで、依頼者は「どこまで情報を揃えればいいか」を自律的に判断できるようになります。 目指すユーザー体験は、「検索1回・申請3分」です。社内ポータルで検索すればすぐにフォームが出てきて、3分で入力が終わる状態を作ります。

実装レバー2:期限と順番——速く・公平に・詰まらせない

仕事が溜まったとき、担当者の「勘」や「声の大きい人の依頼」を優先していませんか? これが混乱の元です。客観的なルールで順番を制御します。

(1) 期限の基本設定

前回の「信号機」のルールを適用します。

  • 通常(緑): 24時間以内
  • 急ぎ(黄): 8時間以内
  • 緊急(赤): 即時対応

(2) 順番のアルゴリズム

基本は「先に来た順」ですが、それだけではありません。「先に来た順+優先度」で並べ替えます。また、担当者の「得意分野」で自動的に振り分ける仕組みや、「時間が経つほど優先度が自動アップする」仕組みを入れることで、難しい案件がいつまでも放置されるのを防ぎます。

(3) 見える化ボードの設置

スプレッドシートやタスク管理ツールで、以下の数字を常時表示します。

  • 仕掛かり数(今、手元にある数)
  • 滞留時間(どれくらい止まっているか)
  • やり直し率

特に「赤(緊急)」の案件については、解決していなくても、48時間以内に「次の一歩(Next Action)」を1行で登録することを義務付けます。解決には時間がかかっても、「次に何をすべきか」が決まっていれば、組織は安心できるからです。

実装レバー3:権限“スライダー”——高さ・幅・深さを場面で変える

「任せる」という行為を因数分解するツール、それが「権限スライダー」です。 マネージャーは案件ごとに、あるいは部下の熟練度ごとに、以下の3つのスライダーを調整します。

スライダーA:高さ(決める深さ)

意思決定のプロセスをどこまで任せるかです。

  • レベル1:情報収集(事実を集めて整理するところまで)
  • レベル2:提案(「私はこう思います」という案を出すところまで)
  • レベル3:最終判断(「これで進めます」と決定するところまで)

スライダーB:幅(影響範囲)

その決定が及ぶ範囲です。

  • レベル1:自部門のみ(チーム内で完結する話)
  • レベル2:関連部門(隣の部署にも影響する話)
  • レベル3:全社(会社全体に関わる話)

スライダーC:深さ(例外の重さ)

案件の難易度やリスクです。

  • レベル1:通常(マニュアル通り)
  • レベル2:軽例外(少し外れているが前例あり)
  • レベル3:難案件(前例なし、高リスク)

運用イメージ

例えば、「小額・低リスク・定型」の組み合わせなら、すべてのスライダーを「お任せ」側に振り、自動成立とします。 逆に、「高額・全社影響あり・難案件」であれば、部下の権限は「情報収集(高さレベル1)」までに限定し、そこから先はマネージャーが引き取る、といった使い分けをします。 「これ、任せたよ」と言う代わりに、「この案件は、高さレベル2、幅レベル1で頼む」と伝えることで、部下はどこまで自分でやっていいかを正確に理解でき、必要以上に上司の顔色を伺わなくて済みます。

実装レバー4:知識の資産化——“属人のコツ”を流通させる

業務の中で生まれた「気付き」を、個人の頭の中に留めず、組織に流通させます。 そのためのフォーマットが「ナレッジカード」です。

  • 悪例→良例: 「こうすると失敗する」と「こうすれば成功する」を対比させる。
  • 判断の前提: なぜそのルールがあるのか、背景にある思想。
  • よくある質問: 過去に聞かれたことの蓄積。

これらを1枚のカード(ドキュメント)に集約します。 重要なのは更新頻度です。「月1回」と決め、新しい項目を足すだけでなく、不要になった古いルールや冗長な要素を削るメンテナンスを必ず行います。

実装レバー5:自動化と外部委譲——“人でやらない勇気”

最後に、人間がやらなくていいことを手放します。

  • 自動処理: 入力データの転記、照合、完了通知、ステータス更新。これらはRPAやスクリプトに任せます。
  • 閾値超えのみ外部へ: 例えば法務チェックや与信判断において、金額やリスクスコアが一定以上の場合のみ、外部の専門家へエスカレーションするフローにします。
  • セルフサービス化: 問い合わせを減らすために、FAQを整備し、ガイド付きフォームを用意します。「聞かなくてもわかる」「申請すれば自動で進む」状態を作ることで、問い合わせ自体を削減します。

組織タイプ別の回し方(3つの型)

これらのレバーをどう組み合わせるかは、組織のタイプによって異なります。以下の3つの型から、自社に合うものを選んでください。

  1. プール制: 案件を共通の「箱(プール)」に入れ、メンバーが得意分野に応じて自発的に取っていくスタイルです。業務量の波が大きい部門に向いています。
  2. ハブ&スポーク: 法務や財務などの中枢(ハブ)が標準ルールを作り、各事業部の担当者(スポーク)が一次処理を行うスタイルです。多拠点・多事業の組織で有効です。
  3. 専門チーム(集中拠点): 難易度の高い案件と、標準ルールの更新機能だけを特定のチームに集約するスタイルです。例外が非常に多い現場で力を発揮します。

まずは自社のチームがどの型に近いかを考え、スライダーの設定やフォームの作り方を調整してみてください。 次回、最終回では、これらの仕組みを実際に組織に定着させるための「90日ロードマップ」と、成否を分ける「3つのKPI」について解説します。

  • この記事をシェアする
  • facebook
  • twitter