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TOP &GROWアカデミー コラム 【後編】事務職を潰す「ホワイトハラスメント」。一般職の壁を超える育成論

【後編】事務職を潰す「ホワイトハラスメント」。一般職の壁を超える育成論

2025.12.24

前編では、過度な配慮(ホワイトハラスメント)が、AI時代における事務職のキャリアをいかに危険に晒しているかをお伝えしました。「一般職だから」と業務を制限することは、部下の将来を閉ざす行為になりかねません。

しかし、いざ実践しようとすると、管理職の皆様は高いハードルに直面するはずです。

「君の成長のためだ」と言って仕事を増やせば、「給料は上がらないのに責任だけ増えた」と反発されるリスクがあります。「やりがい搾取」と捉えられてしまっては、信頼関係は崩壊します。

必要なのは、無茶振りでも丸投げでもなく、「グラデーション(段階的)」な任せ方と、部下との「未来への合意形成」です。

後編では、職掌や給与の壁を乗り越え、事務職部下を「自律型人材」へと変えるための具体的な3つのステップと、対話のスクリプト(台本)をご紹介します。

「一般職の壁」を超えるための3つのステップ

部下の意識を変え、行動を変えるためには、以下の順序でアプローチすることが重要です。

Step 1: 対話による「意欲の棚卸し」(Unlock)

まず、あなたの頭の中にある「一般職=現状維持を望んでいる」という思い込みを捨ててください。そして、1on1ミーティングなどの場で、部下の本音を「鍵開け(Unlock)」します。

  • 「会社や制度の枠は一旦忘れて、これからのキャリア、どう考えてる?」
  • 「3年後、どんなふうに働いていたい?」

こう聞くと、意外な答えが返ってくることがあります。 「実は総合職転換に興味があるけれど、試験に落ちるのが怖くて言えなかった」 「家庭があるから残業はできないが、もっと頭を使う仕事がしたい」 部下の中に眠っている「成長への火種」を見つけることがスタートです。

Step 2: 業務の「質の転換」と「評価」(Shift)

意欲があるからといって、単に業務量を増やすのはNGです。それはただの「負担増」です。 目指すべきは、業務の「質の転換」です。

  • Before: 「このデータを入力しておいて」(作業)
  • After: 「RPAを使って、この入力作業を自動化できないか試してみて」(改善・企画)

このように、ルーチンワークをITで効率化させ、そこで浮いた時間を使って「判断業務」や「改善業務」を任せます。 そして重要なのが「評価」です。 「今の職掌(一般職)の範囲内でも、この改善ができれば最高評価(S評価)をつける」 「この実績を作れば、来年の転換試験に推薦できる」 現行制度の中で最大限報いる道筋、いわゆる「ニンジン」を明確に示すことで、納得感を醸成します。

Step 3: 失敗のセーフティネット(Support)

一般職の部下が新しい挑戦を躊躇する最大の理由は、「失敗して責任を取らされるのが怖い」からです。 ここで管理職の出番です。

「判断と実行は君に任せる。でも、最終的な責任はすべて私が取る。稟議書の名義も私だ。 だから、思い切ってやってみてほしい」

この「心理的安全性」が担保されて初めて、部下は一歩を踏み出すことができます。

具体的な対話スクリプト(ケーススタディ)

では、実際の面談場面でどう伝えるべきか。よくある2つのケースで、NG対応とOK対応を見ていきましょう。

ケースA:能力はあるが、自信がなく現状維持を望む部下

  • × NG対応:

「もっとやれるだろ、頑張れ。期待してるんだから」

  • 解説: 精神論だけでは響きません。「負担が増えるだけ」と警戒されます。
  • ◎ OK対応:

「君の正確さと気配りは、今の入力業務だけに留めるのはもったいない。今度、チーム全体の業務フローを見直すリーダーをやってみないか? 会社の評価のためというより、君自身の市場価値を上げるチャンスだと思ってほしい。 これができれば、将来どこに行っても重宝される『武器』になるから」

  • 解説: 会社のためではなく、「部下自身のキャリア(防衛策)」のためという文脈で動機づけを行います。

ケースB:「お給料が違うので、責任ある仕事はやりません」と線引きする部下

これは最も難しいケースですが、ここを避けては通れません。

  • × NG対応:

「給料の話はするな。やる気がないならいい」 「みんなやってるんだから」

  • 解説: 正論でねじ伏せようとすると、ハラスメントになります。
  • ◎ OK対応:

「確かにその通りだね。給与差がある中で、総合職と全く同じ責任を負わせるつもりはないよ。 ただ、正直に伝えると、単純な事務作業は今後どんどんAIに置き換わっていく。 私は君に長く活躍してほしいから、AIができない『調整・企画』のスキルを今のうちに身につけてほしいんだ。 もちろん、成果が出たら評価で報いるし、もし希望するなら将来的な職務転換も全力でサポートする。どうかな?」

  • 解説: まず相手の言い分(給与差)を認めます。その上で、「AIへの危機感」と「あなたへの期待」をセットで伝え、敵対関係ではなく「共に未来を考えるパートナー」としてのスタンスを示します。

DX・リスキリングを「共通言語」にする

「一般職・総合職の壁」を壊す最も有効なツールは、「デジタルスキル」です。

これまで、事務職の評価軸は「早さと正確さ」でした。しかしこれからは「Excelマクロが組める」「kintoneでアプリが作れる」「RPAでロボットが作れる」といったスキルが評価軸になります。

これらは、職掌に関係なく習得可能です。 部下の業務目標に「月に1つ、業務効率化ツールを作成する」といった項目を入れてみてください。 事務職の部下がデジタル武装し、現場(営業や製造)の困りごとをツールで解決するようになれば、周囲の目は劇的に変わります。 「あの子はただの事務員さん」から、「業務を最適化してくれる司令塔」へと、リスペクトが集まるようになるのです。

事務職こそ、最強の「司令塔」になれる

「一般職だから」というラベルを貼っているのは、実は部下自身ではなく、私たち管理職の方かもしれません。

「事務職はサポート役」という古いOS(基本ソフト)を捨ててください。 バックオフィスにいる彼ら・彼女らは、会社の情報の流れを一番よく知っています。彼らが受け身から主体的に変わり、業務改善のプロになれば、組織の生産性は劇的に向上します。

「君ならできる」と信じて、勝手に設けていた枠を外し、高いところへ登るためのハシゴをかける。 それが、部下の一生を変える「上司の仕事」であり、ホワイトハラスメントからの脱却です。

今日、部下に一つだけ質問してみてください。 「今の仕事の中で、AIやロボットに任せられそうなものはある?」

その問いかけが、部下が「作業者」から「変革者」へと変わる第一歩になるはずです。

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