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TOP &GROWアカデミー コラム 決裁に頼らない「ミドルマネジメントの自律駆動モデル」構築 【第1回】 概念・設計編

決裁に頼らない「ミドルマネジメントの自律駆動モデル」構築 【第1回】 概念・設計編

2025.12.24

【第1回】「ミドルマネジメントの自立駆動モデル」構築

「課長、この件どうしましょうか?」 「部長、例の案件の承認、まだでしょうか?」

毎日、チャットツールやメールボックスに雪崩のように押し寄せる「確認依頼」。あなたは会議の合間を縫って、スマートフォンで内容を斜め読みし、スタンプを押し、また次の会議へ走る……。 現代の中間管理職(ミドルマネジメント)の多くが、まるで「千手観音」のような働き方を強いられています。組織が拡大するフェーズにおいて、ミドルマネジメントやバックオフィス部門は、往々にして業務の「ボトルネック」と化してしまいます。経営層からは「もっとスピードを上げろ」と檄を飛ばされ、現場からは「早く決めてくれ」と急かされる。その板挟みの中で、管理職は疲弊していきます。

この問題を解決するために、多くの企業が取り組むのが「権限委譲」です。 「課長にも決裁権を渡そう」 「金額が◯万円以下なら現場判断でいいことにしよう」

一見、理にかなった対策に見えます。しかし、多くの現場では、決裁権を増やしたはずなのに、なぜか以前より混乱が増したり、トラブルが頻発して結局やり直しになったりします。 なぜでしょうか。それは、私たちがミドル/バックオフィスの役割を「決裁の通り道」だと誤解しているからです。

本連載(全3回)では、単に承認者を増やす「一次決裁の拡大」に頼らず、組織のスケールに合わせて中間層の機能を再定義する設計図を提示します。 第1回は、組織を詰まらせている構造的な原因と、それを解消するための「5つの設計原則」について、その概念を深く掘り下げていきます。まずは、あなたの組織が陥っている「詰まり」の正体から解き明かしていきましょう。

「一次決裁」を増やすだけでは、組織が破綻する3つの理由

「権限委譲」という言葉は甘美ですが、準備なしに権限だけを現場に配ると、組織は以下のような不全を起こします。元のメモにある3つの視点から解説します。

(1) ボトルネックが移動するだけで、総量は減らない

決裁権を配ることで、一時的には「承認」のスピードが上がったように見えます。しかし、依頼の「入口」が整理されていなければ、どうなるでしょうか。 必要な情報が欠けたまま依頼が来たり、優先順位が不明なままチャットが飛んできたりします。結果、権限を渡された現場リーダーが、今度は「情報の整理」や「手戻り対応」に忙殺され、新たなボトルネックになるだけです。 「入口の混乱」や「依頼情報の欠落」という根本原因を解決せずに権限だけ渡しても、詰まる場所が変わるだけで組織全体の生産性は上がりません。

(2) 「例外」が上に集まり、判断疲れを起こす

「マニュアルにない事態」が起きたとき、現場はどうするでしょうか。定義が曖昧なままだと、結局「これはどう判断すればいいですか?」と、すべて上位者に持ち込まれます。 組織が大きくなればなるほど、この「例外」の件数は増えます。管理職は、定型業務の手離れはできても、最も脳のリソースを使う「例外対応」の嵐にさらされ続けます。これが「判断疲れ」の正体です。 結果として、重要な意思決定をするための体力が残らず、ただ右から左へ受け流すだけの存在になってしまいます。

(3) 組織に「学び」が残らない

とにかく早く捌くこと、決裁スピードを上げることだけをKPIにすると、現場は「承認をもらうこと」が目的化します。 本来、ミドルオフィスの役割は、例外を受け止め、そこから「次はどうすれば防げるか」という学びを抽出し、会社の資産(標準ルール)に変えることです。 速さだけを追求すると、再発防止や標準の更新といった「資産化」のプロセスが省略され、同じようなトラブルが何度も繰り返される「学習しない組織」になってしまいます。

目指すべきは「任せても崩れず、回しても詰まらない組織」

では、どうすればよいのでしょうか。 目指すべきゴールは、「任せても崩れず、回しても詰まらない組織」を作ることです。 「任せる」ことと「放置する」ことは違います。安心して任せるためには、そのためのガードレールが必要です。

そのためには、決裁権(ハンコ)を渡す前に、仕事が流れる「配管」自体を設計し直す必要があります。具体的には、以下の4つの動きを設計します。

  1. 見える: 今、どこに、どれだけの仕事が溜まっているかが一目でわかる状態にします。
  2. 並べる: 優先順位と期限が明確で、誰も迷わずに着手できる状態にします。
  3. 任せる: 権限の範囲が明確で、どこまで自分で決めていいかが分かっている状態にします。
  4. 学ぶ: トラブルが起きても、それが次の「標準」に還元されるサイクルを作ります。

これらの動きを実現するために、5つの設計原則を導入します。これは20名〜300名規模の組織で、店舗や製造、SaaSなど「反復と例外が同居する」あらゆる業態に適用可能です。

組織をスケールさせる「5つの設計原則」

専門的なツールや高価なSaaSは必要ありません。まずはスプレッドシートが1枚あれば十分です。以下の5つの原則に沿って、業務フローを書き換えてみてください。

原則1:決裁が要らない設計を増やす(自動成立)

最大のパラダイムシフトはここです。「すべての仕事には承認が必要である」という思い込みを捨ててください。 「小額である」「リスクが低い」「定型業務である」といった条件を満たす仕事は、承認行為そのものをなくし、「自動成立」とする設計を増やします。 例えば、5,000円以下の備品購入で、かつ指定業者からの購入であれば、上司の承認はいらない、といったルールです。管理職がチェックするのは、そこから外れた「異常値」や「例外」だけでいいのです。これにより、圧倒的に業務スピードが上がります。

原則2:入口は1つにまとめる

「あ、部長。ちょっといいですか?」という口頭依頼、「チャットでメンションしておきました」というSlack連絡、「メールで添付ファイルを送りました」という正式依頼。 これらが混在している限り、抜け漏れはなくなりません。 原則として、依頼の入口は「フォーム」一本に絞ります。メールや口頭での依頼は「受け付けない」というルールを徹底します。 そして、フォームには必ず「内容・期限・金額目安」の3点を必須項目として設けます。これだけで、「あの件どうなってる?」「で、いくらかかるの?」という不毛なラリーを撲滅できます。

原則3:信号機と期限で迷いをなくす

現場が迷うのは「これは急ぐべきか? 後回しでいいか?」という判断です。 ここに「信号機」の概念を持ち込みます。案件の状態を色で定義するのです。

  • 緑(通常): 標準的な対応。期限は24時間以内。
  • 黄(注意): 少し急ぎ、あるいは注意が必要な案件。期限は8時間以内。
  • 赤(緊急): 今すぐ対応が必要な異常事態。24時間以内に一次対応を完了させる。

このように、案件のステータスを色分けし、それぞれの色に対して「いつまでに何をするか」という行動基準(SLA)を紐付けます。これで現場の迷いが消え、感情的な「なる早で!」という言葉も不要になります。

原則4:権限は“スライダー”で可変にする

これが本連載の核心部分であり、従来の権限委譲との最大の違いです。権限委譲は「全権委任」か「マイクロマネジメント」かの二択ではありません。 オーディオのイコライザーのように、「高さ」「幅」「深さ」というツマミ(スライダー)を調整して任せる範囲を決めます。

  • 高さ(決める範囲): どこまで決めていいか。調査までか、提案までか、最終決定までか。
  • 幅(影響範囲): 誰に関係するか。自部署だけで完結するか、全社に影響するか。
  • 深さ(例外の重さ): 難易度はどうか。定型か、未曾有の例外か。

このスライダーの概念を持つことで、「この案件は定型だからフルでお任せ(スライダーMAX)」「これは例外だから調査までお願い(スライダー調整)」といった柔軟な運用が可能になります。

原則5:学びは1枚で残す

分厚いマニュアルを作っても誰も読みません。学びは「カード1枚」に残すのが鉄則です。 「今回の悪例」と「本来あるべき良例」、そして「次にやるべき一歩」をセットにして1枚のカード(ドキュメント)にします。 そして重要なのが、これを月1回のペースで更新し、「足すよりも削る」ことを意識することです。ルールは放置すると、不安から確認項目が増え続け、現場を縛ります。定期的にメンテナンスし、陳腐化したルールを捨てていくことこそが、管理職の重要な仕事です。

明日からのアクション

第1回では、なぜ従来の「承認フロー」が機能しないのか、そして新しい「ミドル/バックオフィスのOS」となる5つの原則について解説しました。

  • ミドルは「決裁の通り道」ではなく「学びを資産に変える中枢」である。
  • 承認印を増やす前に、入口・順番・権限・学びの4つを設計する。

まずは、「自分たちの仕事は、決裁なしで自動成立させられるものはないか?」「入口がバラバラになっていないか?」を見直すことから始めてみてください。 次回、第2回では、これらの原則を具体的な業務に落とし込むための「実装編」に入ります。「仕事のカタログ化」の手法や、目玉となる「権限スライダー」の具体的な設定方法について、図解を見るように詳しく解説していきます。

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