2026.1.7
ジョブホッパーを戦力に変える!中小企業のエンゲージメント活用術
異動の伝え方一つが、それまで積み重ねてきた信頼関係を構築するか、崩壊させるかを決定づけます。
「今度、〇〇に異動してもらうことになったから」
その一言が、部下の心にどのような影響を与えるか、想像されていますか?
異動は、組織活性化、業務調整、そしてスタッフのキャリア支援のために不可欠な人事戦略です。しかし、本人にとっては予期せぬ通達となることも多く、不安や不信感につながりかねません。実際、厚生労働省の調査によると、異動経験者の多くが職場への適応にストレスを感じています。
特に介護・福祉の現場では、業務内容や人間関係が大きく変わる異動は心理的負担が大きく、最悪の場合「辞めたい」という気持ちを引き起こすリスクがあります。2023年の厚生労働省の調査では、医療・福祉分野における離職者数は全産業の中でも高い水準にあります。
伝え方を誤れば、せっかくの優秀な人材のモチベーションや組織へのエンゲージメントが一気に崩れかねません。逆に、伝え方とサポート体制を工夫することで、部下は異動を前向きに捉え、新しい環境でさらに能力を発揮してくれる可能性が高まります。
この記事では、管理職の皆様が異動をポジティブな「成長のチャンス」としてスタッフに受け入れてもらうための、具体的かつ実践的なコミュニケーション手法を紹介します。

異動に納得感がない場合、スタッフは組織に対する不信感を抱き、エンゲージメントが低下します。その根本原因を理解することが、適切なコミュニケーションの第一歩です。
「なぜ自分なのか」「なぜこのタイミングなのか」という異動の背景や目的が説明されないと、スタッフは自分の評価が下がったのではと不安を覚えます。
人事異動においては、「動機の透明性」が欠かせません。曖昧な説明は憶測を呼び、組織への不信感の温床となります。
「決定事項」として、一方的に異動を告げられると、スタッフの主体性は失われ、業務に対する受動的な姿勢が強まります。
これは組織への信頼を大きく損ねる要因となり、エンゲージメントの低下、ひいては離職リスクを高めます。
新しい環境での業務や人間関係、具体的な支援体制が不明なままだと、「放り出された」という強い不安を感じさせてしまいます。
特に、経験が浅いスタッフや、環境変化への適応に時間を要するスタッフにとっては、このフォロー体制の不明確さが大きな不安要因となり、離職へとつながりやすくなります。

スタッフが異動を前向きに捉え、主体的に新しい役割に取り組んでもらうためには、準備段階から決定、そしてフォローアップに至るまで、戦略的な対話が必要です。
異動が正式決定する前から、定期的な1on1などを通じて、スタッフの成長や希望、現在の業務適性について対話しておくことが重要です。
離職防止に成功している施設では、サプライズを避けるため、半年以上前から異動の可能性やキャリアパスについて対話を始めています。
異動を伝える際は、「なぜこのタイミングでこのポジションに異動が必要なのか」という組織戦略の背景と、「そのポジションであなたに何を期待しているのか」という本人の成長への期待を明確に伝えます。
| 伝える内容 | 効果 | |
| NG例 | 「組織の都合でね。人員配置の調整だから」 | 自分事ではない、不信感につながる |
| OK例 | 「〇〇さんのチームマネジメント経験を活かして、△△の現場でリーダーとして早期に活躍してもらいたい」 | 本人が「自分は必要とされている」「期待されている」と感じられる |
意図を明確にすることで、異動が単なる配置転換ではなく、自身のキャリアにおけるポジティブな役割変更であると認識してもらえます。
異動を「あなたにだからお願いしたい」というポジティブな評価の延長線上にあるものとして位置付けます。過去の実績や、期待している具体的な成長について具体的に伝えることが重要です。
異動が信頼関係を損なう形で一方的に伝えられると、それ自体が退職の引き金になるリスクもあります(厚生労働省『雇用動向調査』より、職場の人間関係を離職理由とする割合は少なくありません)。
新しい環境での初期の不安を解消するため、「見守ってもらえる」安心感を与える具体的なサポート体制を明示することが極めて重要です。
計画されたサポートがあるという事実は、スタッフの心理的な安心感を格段に高めます。
可能であれば、「最終的にはあなたの意志を尊重したい」というスタンスを持つことが、信頼につながります。
組織として異動が不可避な場合でも、「どうすれば新しい環境で〇〇さんが最大限の力を発揮できるか」を一緒に考える姿勢が重要です。
「〇〇さんの力は組織にとって必要不可欠なんです。異動後も私たちはしっかりサポートします」と誠意を持って伝え、共に新しいキャリアを築いていくという共創的な姿勢を示すことで、納得してもらえる可能性は格段に高まります。
異動の目的は配置転換ではなく「人材育成」です。スタッフ自身にその視点を持ってもらうために、目標設定と成長の振り返りをセットで行いましょう。
異動後、新しい役割で期待されていることを明確に言語化し、3ヶ月・6ヶ月の中間目標(マイルストーン)を設定します。
異動から1ヶ月後、3ヶ月後に「できるようになったこと」「まだ不安なこと」を振り返る場を設けることで、スタッフは成長実感が得られます。
面談時には、「できていないこと」よりも「新しくできるようになったこと」「挑戦し始めたこと」に意図的にフォーカスし、ポジティブなフィードバックを意識してください。これにより、モチベーションが持続しやすくなります。また、日々の変化を本人の言葉で記録する仕組み(例:成長記録ツール)を導入することも効果的です。
異動を伝える瞬間は、管理者とスタッフの関係性が試される重要な局面です。
準備、説明、フォローアップという一連のプロセスを丁寧に設計し、実行することで、異動は単なる「押し付け」ではなく、「キャリアのステップアップ」に変わります。
信頼と納得感をもって受け入れられた異動は、本人のモチベーションを高め、結果として職場全体の定着率と活性化にもつながります。
誰もが「前向きに受け入れられる異動」が当たり前になる職場を目指して、今日からのコミュニケーションのプロセスを見直してみませんか?