2025.11.4
なぜ評価制度は失敗するのか? 典型的な3つの理由
管理職は常に、「KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)」という最上位目標に向かって組織を導こうとしています。KGIとは、端的に言えば「いつまでに、組織がどこへ到達すべきか」を示す羅針盤です。
しかし、この羅針盤が現場でうまく機能しない経験はありませんか?
「経営層から降りてきた目標に、具体的な根拠が見えない」
「測定方法が曖昧で、会議で議論しようにも数字が動かない」
「結局、達成できない目標をただ追いかける『大号令』で終わってしまう」
このような状態では、KGIは組織を動かす力を持てず、むしろ「会議だけが重くなる」原因になりかねません。経営や人事が本当に求めているのは、勇ましいスローガンではなく、達成への確度が高い「実行の設計図」です。
本稿では、皆様が明日から使えるように、KGIを「ただ掲げる目標」から「現場が自ら動き出す仕組み」へと変えるための具体的な方法論を解説していきます。

現場が動かない最大の原因は、目標を構成する二つの要素、KGIとKPI(Key Performance Indicator)が混ざり合ってしまっている点にあります。
目標設定における基本中の基本、そして現場の混乱を防ぐための最初のステップは、この二つを厳密に切り分けることです。
もしこの二つが混同されると、会議では「売上が達成できていませんね」「なぜ達成できないんだ」という、結果の言い換えや精神論に終始してしまい、次に何をすべきかの意思決定ができません。
管理職の皆様がまず実行すべきは、社内のすべての目標指標を、KGI(結果)かKPI(因果)のいずれかに分類し直すことです。
この仕分けを行うだけで、いま議論すべきことが「ゴールの見直し」なのか「手段の改善」なのかが一目で分かり、無駄な会議が減り、意思決定のスピードが劇的に向上します。
現場が「無理ゲーだ」と感じるのは、目標値に具体的な根拠がないからです。現場が熱意を持って動くには、目標値が「現状+伸びしろの根拠」で裏付けられている必要があります。
KGIの数値を決める際、管理職として押さえるべき根拠は以下の二つです。
目標達成の鍵となる「改善ドライバー」(例:特定プロセスの効率化、顧客の定着率向上など)を特定します。
そして、「このドライバーをこれだけ改善すれば、KGIにこれだけの数値効果がある」という想定効果を具体的に見積もります。例えば、「在庫回転を20%上げれば、キャッシュフローが〇〇円改善する」といった具合です。
その改善ドライバーを実行するために、実際に必要なリソース、つまり「人、時間、予算、新しい仕組み」を洗い出し、確保します。
この目標設定のプロセスを、抽象的な会議で終わらせてはいけません。
「KGIシート」のようなシンプルなツールを使い、〈現状の数値/目標値/改善ドライバーと想定効果/必要資源/リスクと対策/測定頻度〉といった要素をすべて一覧化します。
このシートを介して、経営層と現場が「なぜその数値が妥当なのか」「それを達成するために何が必要か」という点について、同じ紙面上で完全に合意します。
この合意のプロセスこそが、現場の「無理ゲー感」を消し去り、目標達成後の具体的な姿を共有し、実行へのコミットメントを高める鍵となります。

KGIという到達点が固まったら、次に具体的な道筋、つまりKPIツリーを描きます。KGIを最終的に現場が日々実行できるレベルの指標に落とし込む作業です。
KPIツリーは、複雑にしすぎると現場の混乱を招きます。目標を「3段以内」の構造で分解することを推奨します。
このツリー構造によって、現場の行動(3段目)が、いかに上位のKPI(2段目、1段目)を経てKGI(結果)に結びつくかという因果関係を、誰もが理解できるようになります。
ツリーの最下段に位置するのは、現場が週次レベルでコントロールできる「先行指標」です。
先行指標とは、名前の通り「結果に先んじて動く指標」のことです。「これをやれば、必ず結果につながる」という確信の持てる、前倒しの行動・プロセスを表します。
例えば、「インサイドセールスの架電数」「製品のオンボーディング完了率」「週次の教育研修実施回数」などです。
管理職の役割は、この先行指標を「何をすればいいか分からない」状態から解放し、「これをやればいい」と確信を持たせることです。
分解したすべてのKPIと先行指標について、以下のルールを必ず明確にします。
これらの明確化により、現場は数字の測定や報告に時間を費やすことなく、純粋に行動(実行)に集中できるようになります。
KGIを仕組みとして機能させるには、目標設定と同じくらい、その運用リズムが決定的に重要になります。
リズムの基本は、「KGI固定 × KPI四半期可変」です。
また、月次では、KGIと主要KPIの進捗を確認する「チェックイン」を定例化し、目標とのズレを把握します。
この運用をスムーズにするのが、経営と現場の双方向の「キャッチボール」です。
この相互に合意した目標とリソース配分をもって、現場は安心して実行に移すことができます。
合意したKGIとKPIは、ダッシュボードに集約し、誰もがリアルタイムで進捗を確認できるようにします。
そして、最も重要なのは、毎週の差分で素早く補正する習慣です。
この「合意形成」と「可視化と迅速な補正」を習慣化することで、KGIはただの目標ではなく、現場が自ら動いて目標達成を目指す、生きた「仕組み」へと変わります。
KGIを「動かせる仕組み」に変えることは、決して難しいことではありません。管理職の皆様が明日から実行できる具体的なステップは以下の4つです。
これらのステップを実行することで、KGIは単なる目標から、現場の自走を促す強力なエンジンへと変貌します。達成率と、意思決定のスピードが同時に上がっていくのを、ぜひ実感してください。