2025.11.27
“辞めたくない職場”をつくる上司の条件とは?エンゲージメントを高める5つの極意
「コンプライアンス」と聞いて、あなたはどのようなイメージを抱くでしょうか。「法令遵守」「規則」「リスク管理」といった言葉が頭に浮かぶかもしれません。確かに、これらはコンプライアンスの重要な側面です。介護事業、特にデイサービスでは、利用者の生命や健康を預かるという社会的責任がある以上、法令を遵守し、倫理観を持って運営することは揺るぎない大前提です。
しかし、今日の経営環境において、コンプライアンスはもはや「守り」の姿勢だけでは不十分です。法令をただ守るだけでは、競合他社との差別化は生まれません。真に求められているのは、コンプライアンスを「経営戦略」として捉え直し、利用者の信頼を築き、職員の働きがいを高めるための「攻め」の武器にすることです。
この記事では、デイサービス事業所の管理職の皆さんが、明日から実践できる「攻めのコンプライアンス」について、具体的な戦略を交えながら解説します。単なる知識の羅列ではなく、皆さんの事業所が持続的に成長するための羅針盤として、この情報が役立つことを願っています。

コンプライアンスは、単一のルールではなく、事業運営のあらゆる側面に深く関わっています。その多面性を理解することが、戦略的なコンプライアンス経営の第一歩です。
デイサービス事業所の運営は、介護保険法、労働基準法、個人情報保護法など、多くの法規制に縛られています。特に注意すべきは、介護報酬の請求に関するルールです。人員配置基準を満たさずに請求を行ったり、サービス提供記録に虚偽の記載があったりすれば、それは不正請求にあたります。不正請求は、行政指導や監査の対象となるだけでなく、刑事罰や指定取消という最も重い行政処分につながる可能性があり、事業の存続そのものを脅かします。
コンプライアンスは、法律だけでなく、人権や倫理の遵守も含まれます。高齢者の中には、身体的な障害や認知機能の低下を抱えている方も多く、転倒や誤嚥といった物理的なリスク管理は不可欠です。しかし、それ以上に重要なのが、利用者の尊厳の尊重です。身体拘束ゼロ、虐待防止、そして一人ひとりの個性や意思を尊重した個別ケアの提供。これらは単なるサービスの質の問題ではなく、人としての尊厳を守るという、最も根源的なコンプライアンスなのです。
職員が心身ともに健康でなければ、質の高いサービスは提供できません。長時間労働やサービス残業は、労働基準法違反であると同時に、職員のモチベーションを低下させ、ケアの質の低下に直結します。また、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントといった問題は、職員の精神的健康を損ない、離職率を上昇させます。適切なシフト管理、有給休暇の取得促進、そしてハラスメントのない健全な組織文化の構築は、法令遵守だけでなく、職員のウェルビーイングを高めるための不可欠な要素です。
コンプライアンスは、事業所の運営における「透明性」にも直結します。利用者やその家族に対し、ケアプランや料金体系、事業所の運営方針について、正確かつ丁寧に説明することは信頼を築く上で不可欠です。また、職員間での情報共有を円滑にすることも重要です。日々のケアに関する情報だけでなく、事業所の経営状況やコンプライアンスに関する取り組みをオープンにすることで、職員は「自分たちが事業所を支えている」という当事者意識を持つことができます。

コンプライアンス違反は、表面的な問題にとどまりません。事業所全体を蝕む、「社会的信用の失墜」「経済的損失」「法的・行政的制裁」といった、深刻な「三重苦」をもたらします。
法令違反が発覚した場合、行政による監査や指導が入り、最悪の場合、指定取消や事業停止命令が下されます。これらは事業所の存続に関わる致命的なリスクです。
コンプライアンス違反が報じられたり、SNSや口コミサイトに悪評が拡散されたりすれば、利用者は瞬く間に離れていきます。デイサービス事業は、地域の評判に大きく左右されるビジネスです。一度失った信頼を回復するには、莫大な時間と労力がかかります。
劣悪な労働環境や、コンプライアンス意識の低い組織は、職員にとって安心して働ける場所ではありません。職員のモチベーションが低下し、離職率が上昇すれば、サービスの質は必然的に低下します。その結果、新たな人材を確保するための採用コストが増大し、事業所の経営を圧迫します。
あるデイサービス事業所が、人員配置基準を満たさないまま介護報酬を請求していたとします。たとえそれが意図的ではなかったとしても、行政指導が入れば、その事実は地域社会に知れ渡ります。それまで築き上げてきた「安心・安全」のブランドイメージは一瞬で崩壊し、長期にわたる事業の衰退につながるのです。

では、私たちはどのようにして「攻めのコンプライアンス」を実践すればよいのでしょうか。それは、単にルールを守らせるのではなく、組織全体にコンプライアンスを文化として根付かせることです。
コンプライアンスの推進は、管理職の強い意志とリーダーシップから始まります。まずは、あなた自身がコンプライアンスの重要性を深く理解し、その理念を職員に語りかけ、共有することが不可欠です。単に「ルールだから守れ」と言うのではなく、「なぜこのルールが必要なのか」「このルールが利用者の安全にどうつながるのか」という目的を明確に伝えることで、職員は当事者意識を持つことができます。
法令やマニュアルの知識を一方的に伝えるだけでなく、実際のヒヤリハット事例や過去のトラブル事例を題材にしたケーススタディを導入しましょう。新人職員には、コンプライアンスの基本を徹底的に指導し、ベテラン職員には、日々の業務で無意識に陥りがちな落とし穴について再認識してもらう機会を設けることが重要です。また、質疑応答の時間を設け、職員が気軽に疑問を投げかけられる雰囲気をつくることで、潜在的なリスクの芽を摘むことができます。
外部監査に備えるだけでなく、自主的に内部監査を行うことを習慣化しましょう。BodyPioneerグループが実践しているように、自店舗以外の職員が客観的な視点で評価することで、普段見過ごしがちな問題点や改善のヒントが見つかります。監査結果は、個人の責任を追及する場ではなく、組織全体の改善につなげるための重要なデータとして活用すべきです。
ハラスメントや不正の兆候を早期に発見するためには、職員が安心して相談できる環境が必要です。匿名での通報窓口を設けるだけでなく、「コンプライアンス担当者」を配置し、職員が気軽に疑問や悩みを相談できる体制を整えましょう。これにより、小さな問題が大きなトラブルに発展する前に、対処することが可能になります。
事業所独自のコンプライアンス行動指針を策定しましょう。「利用者の尊厳を守るために、私たちは〇〇な対応を徹底します」といった、現場の行動に直結する具体的な指針を職員全員で共有することで、日々の業務における判断基準が明確になります。
デイサービスにおけるコンプライアンスは、もはや「義務」や「コスト」ではありません。それは、事業の持続可能性を担保し、他社との差別化を図るための「成長戦略」そのものです。法令遵守を土台に、利用者の信頼を積み重ね、職員の働きがいを創出することで、あなたの事業所は社会から真に必要とされる存在になるでしょう。
今一度、問いかけてみてください。あなたの事業所は、明日から「攻めのコンプライアンス」を実践できていますか?